ベンチャー/スタートアップ起業の際にお勧めしたい特許調査
2025.01.01 | 調査コラム
1. はじめに
ベンチャー/スタートアップ企業は増加しており、スタートアップ企業は2023年には2021年比で1.5倍に増加*1、大学発のベンチャーは2023年度にはついに4000社を突破しています*2。しかしながら大学とは、文部科学省のホームページに「大学等の高等教育機関は、多様な教育研究を展開し、社会で活躍する人材の輩出や、社会に変革をもたらす研究成果の創出など、知の基盤としての役割を果たします。」と記載*3されていますように、教育と研究を行う機関です。これに対して企業の研究開発部門は、「研究開発を製品やサービスの提供に繋げて、会社の利益に貢献するという役割」を担っています。この違いに起因して、大学では研究成果を発表する場として学会や学術雑誌が先ず選択されます。そのような環境でも特許の重要性を理解されている方もおられるでしょうが、大半の方々は「起業するためには重要であることはわかっているが、具体的なイメージが伴わない」と感じているのではないでしょうか。今回のコラムでは、ベンチャー/スタートアップ企業における特許の価値と、特許に高い価値を持たせるために有用な特許調査および継続した研究開発のために必要な特許調査について考察いたします。
2. ベンチャー/スタートアップ企業にとっての特許
論文は実験結果や文献や資料に基づき論理的な手法で分析・考察した結果をまとめて公知とするための報告書であり、「知」を構成するものひとつといえます。それに対して特許とは、発明を公開する代わりに一定期間、その発明を独占的に実施する権利を国が与えるものであり、論文のように「知」の側面だけではなく、「独占的に実施する権利」を保障するという側面を有しています。この論文とは異なる「独占的に実施する権利」を保障するという側面が事業にとって重要です。「独占的に実施する権利」だからこそ、できたばかりの、お金も人材も足りないベンチャー/スタートアップ企業が、既存の規模の大きな企業に対して優位性を保つことがきます。
ベンチャー/スタートアップ企業はその分野の先駆者であり、その分野での経験と情熱は同業他社に引けは取らないでしょう。しかしながらそれらは事業を競合他社から守ってくれません。ですので、特許を最大限活用して事業を展開することがベンチャー/スタートアップ企業に求められます。そのためには活用できる特許が必要とされます。
活用が難しい特許、例えば、ある物質の特定の使用方法についてのみ取得した特許を基に事業を展開した場合、特許を取得した使用方法のみが権利範囲となりますので、取得した権利の範囲外の使用方法について競合他社は自由に実施できることになります。そのため、ベンチャー/スタートアップ企業がその物質に対して深い知見を有していたとしても、権利化していない使用方法については共同開発の相手を探すことすら困難です。こういったことを避けるためには、他社にとって魅力のあるデータを揃えているだけでなく、活用できる特許を保有していることが重要となります。
3. 活用できる特許のための特許調査 ~出願前調査~
2で述べた「活用できる特許」の取得のためにお勧めしたい調査として、出願前調査があります。ここでいう出願前調査とは、同様の技術で公知となっている先行技術について特許出願をする前に確認する調査を指します。出願前調査の結果を基に、どこまで請求の範囲を広げて特許が取れそうか/どの程度まで減縮する必要がありそうかを検討すれば、確度をもって広い範囲で権利の取得を目指した出願をすることができます。権利範囲を広くとることは、2で記載したような失敗をするリスクを低くすることに繋がります。また調査結果から、先行技術と自社の技術の相違点が明確になりますので、自社の技術をアピールするための客観的な資料にもなります。
先行技術といえば、ベンチャー/スタートアップの起業を考えている研究者の方(特に大学に属されている研究者)は論文や学会発表はチェックするものの、特許文献はチェックしきれていない方もいるのではないでしょうか。敢えて論文にはせずに特許出願している場合もありますので、特許文献を対象とした出願前調査の実施も重要であると考えます。
※出願前調査の詳細は弊社サービス案内をご参照下さい。
4. 起業後の研究開発のための特許調査 ~技術動向調査~
起業した際にその分野に競合他社がおらず、ブルーオーシャンであればよいのですが、技術開発は様々なところで同時に進行しているのが普通です。ですので、競合他社の開発状況を確認して将来の研究活動の方向性の確認と修正を実施することも大事です。そのためにも特許調査は役立ちます。
競合他社の開発状況を確認するための特許調査は技術動向調査と呼ばれます。技術動向調査とは、調査対象技術を要素毎に分類し、それらの技術要素を用いて文献を分類することで調査対象技術の開発動向を把握する調査です。特許文献は権利を念頭にした文献ですので、これを対象に技術動向調査を実施することにより、競合他社が権利化を目指して注力している技術開発の進捗状況や自社の技術との相違点を把握することができます。それを基に研究開発の方向性を確認・修正しておくことは、起業後の研究開発における競合他社との差別化に繋がります。
※技術動向調査の詳細は弊社サービス案内をご参照下さい。
5. まとめ
今回のコラムでは、ベンチャー/スタートアップを起業する際にお役立ていただける特許調査として、2種類の調査をご紹介させて頂きました。特許調査には今回ご紹介しました「出願前調査」と「技術動向調査」以外にも、2024年3月のコラム*4でご紹介しましたように「他社権利調査」や「無効資料調査」といった別種類の調査がございます。これらの調査も事業にとって重要であることはいうまでもありません。
今後ますます増加すると予想される大学発をはじめとした、ベンチャー/スタートアップ企業の成功とご発展に対して特許調査は貢献できると考えています。
弊社は様々な分野の調査員が揃っておりますので、是非お気軽にご相談ください。
調査2部 石坂
【参考】
*1. https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/kaisetsushiryou_2024.pdf
*2. https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa5_vc_cyousakekka_houkokusyo_r.pdf
*3. https://www.mext.go.jp/a_menu/01_d.htm#inpageLinks4
*4. https://aztec.co.jp/news/columns/5424