ベンチャーにおける特許調査

2024.03.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. はじめに

 2023年6月の経済産業省の「大学発ベンチャーの実態などに関する調査*1では、研究成果型のベンチャーが約6割を占めていること、正社員数が5人未満の企業が5割近くを占めていること、資本金1億円未満の企業が大半を占めていることなどが報告されています。このことから大学発のベンチャーは、研究成果を活用し、限られた資金と人材で起業していることが窺えます。今回のコラムでは、私自身の大学発バイオベンチャーでの研究開発職での体験を踏まえ、ベンチャーにおける特許調査について考察します。

2. バイオベンチャーとは

 一般社団法人バイオインダストリー協会によって、以下の4つの要件に当てはまる会社がバイオベンチャーと定義されています*2

・バイオテクノロジーを手段・対象として事業を営む会社
・従業員数が300名以下または資本金3億円以下である会社
・設立から20年が経過していない会社
・研究開発・(医薬品などの)製造・先端科学コンサルティング・受託研究などを事業とする会社

 上記の定義にはバイオベンチャーが提供する製品は定義されておらず、実際バイオベンチャーが提供する製品は医薬品、食料をはじめ様々な方面に広がりを持っています。

3. バイオベンチャーにおける知財部門

 スタート間もない大学発のベンチャーの場合、小規模であるがゆえにそもそも知財部門が置かれていない場合が多いのではないでしょうか。そのような場合はどのように対応しているかというと、特許庁が開設している「IP BASE*3や医薬品関係であれば「日本医療研究開発機構(AMED)*4といった有名なところを活用する、またはバイオベンチャーの母体となった研究室の所属している大学の知的財産を扱う部署や特許出願時に依頼した特許事務所といった、元々つながりのあったところに相談していたりします。また知財部門がある場合でもその人員も少なく、特許調査手段もなかなか揃えることができないなど調査を自前で実施するには困難な状況にあります。

4. ベンチャーにおける特許調査

4.1 必要な特許調査

 大学発のベンチャーでは起業した段階において、大学で培った研究成果は特許権を取得しているか、少なくとも特許出願は済ませた状態で、事業を展開しています。しかしながら一般企業と同様、ベンチャーも自社の技術を特許により権利化しただけでは安心して事業を行うことはできません。特許を取得した自社の技術であっても他社の特許権を侵害する可能性が残っていますので他社の権利について調査する必要があります。つまり、特許出願する前に実施する「出願前調査」とは別に、他社の権利を確認するために実施する「他社権利調査」という調査も必要です。また調査で侵害してしまう特許が発見された場合は、対象特許を侵害することの回避策の検討や無効化するための「無効資料調査」が必要となります。更に自社の技術だけでなく他社の技術を利用する場合は、ライセンスを確認して技術を利用可能にする必要があります。

4.2 バイオベンチャーにおける特許調査

 私の以前に勤めていた幾つかのバイオベンチャーは大学の研究室の雰囲気が残っていたことが要因のひとつにあったと思いますが、特許調査はあまり実施されておりませんでした。ではどのようにして研究開発を進めていたかというと、研究開発テーマに関係する技術情報を論文や総説、学会やセミナーで入手して上席・同僚と相談して研究開発を行っていました。特許情報は全く活用していなかったわけでなく、企業立ち上げの際に実施したであろう数年前の調査結果を参照していました。ただ研究開発の進展に伴い必要な情報が変化してくると欲しい情報としては足りないこともありました。また調査が実施されておらず情報がない場合もありました。つまり、バイオベンチャーにおいても特許調査の意義は認識されてはいるものの、充分な調査が実施されているとは言い難い状況でした。
 以上のように振り返ってみると、特許調査が必要であることは意識されているのですから、バイオベンチャーにおいて特許調査に手を回しにくいことの主な原因は大学の雰囲気が残っていたこと以外にあると考えます。そこで改めてベンチャーと一般企業との違いを考えてみると、一般企業よりもベンチャーでは人的資源、資金と時間も限られています。実際、起業後しばらくは売り上げを安定させることがバイオベンチャーはできません。そのため特許調査に用いる有償のデータベースを高額すぎてバイオベンチャーは購入できませんし、無償のデータベースである「Google Patents*5、特許庁のデータベースである「J-PlatPat*6や「Espacenet*7は有償データベースと比較して利便性が低く、調査に時間が掛かるという問題があります。このような費用面や時間面だけでなく、人材も限られているのでバイオベンチャー自ら特許調査を実施することは非常に困難であることがバイオベンチャーで特許調査を実施する上での妨げとなっている主たる原因と考えます。

4.3 解決策

 以上、バイオベンチャーで研究開発に従事した経験を交えて、ベンチャーにおける特許調査の状況について考察しましたが、ベンチャーが特許調査をするためには、費用や時間、人材といった問題をどのように解決すればよいのでしょうか。費用については、以前の調査コラム「特許調査や出願に使える補助金、助成金*8で紹介されていますように、各団体や地方自治体の補助金や助成金の活用を検討することを提案いたします。補助金や助成金を活用すれば、特許調査にかかる費用(Cost)を補填することができます。加えて、ベンチャーが有する技術分野に理解がある特許調査会社を活用すれば、特許用の有償データベースを自社で所有する費用が掛からなくなることや特許調査を外注することで研究開発などの別の業務に特許調査にかかる時間を割り当てることができるようになるといったコスト面の向上(Cost)が図れます。調査対象の技術分野に理解のある特許調査会社を活用することで、技術分野の知識を有する調査員による品質(Quality)を保った調査、調査会社による納期管理(Delivery)といったメリットを享受できます。つまり、補助金、助成金、調査会社を活用することでQCDのバランスの取れた調査結果を入手できます。今回のコラムはバイオベンチャーを題材にしていますが、この結論はバイオベンチャーだけではなく、様々な企業においても通じると考えます。調査対象の技術分野に理解のある特許調査会社を活用し、QCDのバランスのよい調査結果の入手をご検討してはいかがでしょうか。

5. おわりに

 ベンチャーでは特許調査の必要性は認識していても、調査費用、時間、人材に課題があるため調査の実施が困難です。その困難を解決してQCDのバランスの取れた調査結果を入手する方法として、補助金や助成金の活用、特許調査会社の活用を提案させていただきました。皆様の参考となれば幸いです。

 弊社は様々な分野の知識を有する調査員が揃っています。またバイオベンチャーから依頼された調査の実績もございます。

調査2部 石坂

【参考】
*1: https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/reiwa4_vb_cyousakekka_houkokusyo.pdf
*2: https://www.jba.or.jp/link_file/2015_BioVentureReport_open.pdf
*3: https://ipbase.go.jp/
*4: https://www.amed.go.jp/index.html
*5: https://patents.google.com/
*6: https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
*7: https://worldwide.espacenet.com/?locale=jp_ep
*8: https://aztec.co.jp/news/columns/4338

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