(ショートレポート)車載HMIの特許出願動向調査

2020.06.19 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. 調査背景

 自動車業界は、CASE(Connectivity:接続性, Autonomous:自動運転, Shared & Services:シェアリングサービス, Electric:電動化)という技術領域による変革の時代を迎える中で、ドライバーや乗員の車内での過ごし方にも変化が求められている。自動運転環境下では、ドライバーは運転操作から解放され、そのほかの乗員とともにもっと車内で快適に過ごしたいと願うだろう。そのため、クルマと人を繋ぐ車載HMI(Human Machine Interface)の重要性はますます高まってきている。そこで、特許出願の面から、車載HMIへの注目度がどう変化しているのかを調査した。

2. 技術概要

 クルマと人との間で情報のやり取りを行うための装置やソフトウェアである車載HMIを対象技術とする。車載HMIには、目的地を入力するナビゲーションシステムや、従来インストゥルメントパネル上にて表示していた計器類をフロントガラス等に投影するヘッドアップディスプレイ(HUD)などがある。
 HUDには、フロントガラスに情報を投影するフロントガラス投影式と、「コンバイナー」と呼ばれる小型で半透明の板状部材に投影するコンバイナー式が主流となっている。

[ コンバイナー式 ][ フロントガラス投影式 ]



    (マツダウェブサイト*1より)

3. 調査戦略(概要)

 本調査では以下のような調査戦略の下、特許母集団を作成した。

  • 国内の動向を主として把握する目的として、日本国出願のみを対象とする。
  • 直近約10年間の、2010年1月1日以降の出願を対象とする。(検索は2020年5月時点)
  • 車載HMIの集団①を作成する。HMIを広く捉えたFIであるG06F3/00を適用範囲とした、「自動車/車載機器を制御対象とするUI」の技術観点で付与されるFターム5E555-BA23を使用する。
  • 車載HMIとして代表的なHUDにフォーカスした集団②を作成する。車両に用いるHUDのFIであるB60K 35/00@Aが付与された出願を使用する。

 上記2つの集団(集団①と集団②)を合算し、3274件を母集団とした。

<使用特許分類>

5E555-BA23・自動車,車載機器 < ユーザがUIで操作/制御する対象 < ユーザインターフェイス
(対応FI:G06F3/00 計算機で処理しうる形式にデータを変換するための入力装置;処理ユニットから出力ユニットへデータを転送するための出力装置,例.インタフェース装置)
B60K 35/00@Aヘツドアツプ < 計器の配置または適用 < 車両用計装または計器板

4. 出願動向

4-1 全体出願動向

 車載HMIおよびHUDの特許出願件数は、2012年以降増加傾向にあり、メルセデスによる”CASE”の発表があった2016年の翌年2017年にはピークを迎えている(図1)。
 なお、2018~2019年の出願件数は、出願公開されていない出願も存在するため、未確定とする(以下同様)。

【図1】 車載HMIおよびHUDの特許出願件数

 次に、母集団全体の出願人を出願件数でランキング付けし、車載HMIに注力している企業を分析した(図2)。

【図2】 出願人ランキング(上位30位)

 出願人ランキングの上位30位を見ると、デンソー、日本精機、トヨタ自動車といった自動車サプライヤ/OEMが上位を独占している。その中でも、パナソニックが10位に位置しており、異業種としては多くの特許出願を行っていると言えよう。
 パナソニックはHUDを2019年モデルの日産スカイラインに供給しており※2、車載HMIに対して注力している様子がうかがえる。

 ここで、上位3出願人とパナソニックの出願推移を比較する(図3)。

【図3】 上位3出願人とパナソニックの出願推移

 デンソーは2010年から他社より多くの出願を行っており、車載HMIに最も注力しているとみられる。2014年のピークまで増加傾向にあり、その後も40~60件/年程度の出願を行っている。
 一方、日本精機、トヨタ自動車、パナソニックらも2010年以降増加傾向にあるが、すでにピークを迎えたと考えられるデンソーとは多少動向が異なる。異業種のパナソニックは2015~2016年に多くの出願を行っており、直近での車載HMIへの本格参入の様子が見られる。

4-2  パナソニック出願動向

4-2-1 出願推移

 異業種としては多くの車載HMIに関する出願を行っているパナソニックの動向を分析した(図4)。特に増加し始めた2014年以降にフォーカスを当てて見てみると、2015~2016年に大きく増加しているが、2017年以降は少し停滞している可能性がある。

【図4】 パナソニック 車載HMIおよびHUDの特許出願件数

 2017年以降は出願数が停滞しているものの、2019年に「VRシミュレーター」が発表されていることから、今後は本シミュレーターを活用することにより、車室内全体に関与する車載HMIの開発を推進していくと推察される。

【 VRシミュレーター 】
パナソニックは車載HMIを仮想空間で検証するVR(Virtual Reality)シミュレーターを開発し2019年に発表※3、2020年1月20日に報道陣に公開した。使い勝手の確認を迅速に行うことができ、開発工数の削減が期待できる。※4

 また、パナソニックのHUDに関する出願を見ると、簡易的なコンバイナー式ではなく、表示の自由度が高いフロントガラス投影式に関する出願が多く見られた。

[ コンバイナー式 ]
(例)特願2019-128559
[ フロントガラス投影式 ]
(例)特願2018-138064

4-2-2 共同出願

 パナソニックの出願のうち、共同出願されたものが2件見られた。1件はトヨタ自動車と、もう1件はマツダとの出願であり、自動車OEMと車載HMIを共同開発していることがわかる。
 今般発表された「VRシミュレーター」は、車載HMIの開発費を削減できること※4をアピールしている。そのため、パナソニックの「VRシミュレーター」を活用し、その他の自動車OEMとの共同開発も加速していく可能性がある。

5. 注目特許

 出願人ランキングで首位のデンソー、自動車OEMで最上位のトヨタ自動車、そして今回注目した異業種出願人のパナソニックのHUDに関する出願を、各1件ずつ取り上げる。

○デンソーの出願は、虚像の視認性向上や輝度ムラ抑制など、画像の表示制御(投影制御)の出願が多く見られる。その中で、車両状態に従って運転者の視界が確保される方向に映像情報の表示位置を移動させる出願を紹介する。

特許第6369106号  

【出願人】株式会社デンソー  【出願日】2014/4/16 
【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置

表示制御装置は、車両状態に従って車両の運転者の視界が確保される方向に、映像情報の表示位置を移動させるように光学ユニットを制御するので、車両状態に適した表示位置に映像情報を表示することができる。また、車両状態に従って車両の運転者の視界が確保される方向に、映像情報の表示位置を移動させるように光学ユニットを制御するので、車両状態に適した表示位置に映像情報を表示することができる。

特許第6369106号 公報リンク(J-PlatPat)

○トヨタ自動車の出願は、運転者の違和感低減や適切な注意喚起など、ドライバビリティ向上を狙う出願が多く見られる。その中で、奥行き感の演出や表示画像の変化によって物体までの正しい距離の認識の補助が可能な出願を紹介する。

特許第6617610号  

【出願人】トヨタ自動車株式会社  【出願日】2016/3/2 
【発明の名称】車両用表示装置

表示画像の示す色が消失点方向に移るに連れて濃くなる。そのため、物体の存在を運転者が認識することを補助することができ、また、消失点方向における奥行き感、ひいては、物体までの距離を正しく把握させる感覚を、表示画像において高めることが可能にもなる。そのうえ、表示画像における輝度、および、透明度の少なくとも1つが、物体と車両との距離の変化に応じて変わるため、物体と車両との距離が変化していることを運転者が認識することを、表示画像の変化によって補助することが可能ともなる。

特許第6617610号 公報リンク(J-PlatPat)

○パナソニックの出願は、虚像の制御や運転者の注意喚起など、デンソーやトヨタ自動車の出願と似た傾向の出願も見られたが、他の車載機器との相互関係を意識した上記2社とは違う視点の出願が見られる。今般発表された「VRシミュレーター」を活用できるような発明と言えよう。運転者が前方から視線をそらした状態において、視覚的に運転支援することができる出願を紹介する。

特願2017-116225  

【出願人】パナソニックIPマネジメント株式会社  【出願日】2017/6/13 
【発明の名称】表示システム、表示方法

センタコンソール近辺で探し物をしており、センタコンソール近辺を凝視している状態では、フロントガラス越しに見える実際の信号機は視野に入っておらず、運転者は実際の信号機の変化に気づかない。しかしながら、ステアリングホイールの近傍に表示された赤信号の信号機ピクトは視野に入っており、信号機ピクトの変化には気づき、視覚的に運転支援することができる。

特開2019-1250 公報リンク(J-PlatPat)

6. まとめ

  • 各社、CASE時代を見据えて車載HMIの開発に注力している。2016年のメルセデスによるCASE概念発表後、HUDとその他車載HMIの出願件数は増加しており、CASE時代到来によりHMIの発展が望まれていると考えられる。
  • 従来の自動車サプライヤ/OEMに加え、パナソニックのような異業種の参入が見られ始めている。
  • パナソニックはすでに自動車OEMとの共同開発を進めている。今後さらに自動車OEMとの共同開発を加速させていく可能性がある。
  • パナソニックは高付加価値製品としてフロントガラス投影式HUDの開発を進めるとともに、VRシミュレーターによるR&D費低減ソリューションの提供を進めている。

7. 参考記事

※1:マツダ オフィシャルウェブサイト 
   https://www.mazda.co.jp/
※2:MONOist
   https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1911/27/news059_2.html
※3:パナソニック プレスリリース
   https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/10/jn191023-1/jn191023-1.html
※4:日経クロステック
   https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/03507/

調査事業部 山下、静野


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