AIが特許調査にもたらす「新しい役割分担」

2026.01.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. はじめに

 新年おめでとうございます。本年も、知財業務に役立つ情報をお届けしてまいります。今回は、AIと人の役割分担に焦点を当て、特許調査の未来を考えます。

 特許調査は、膨大な情報を限られた時間内に精度良く調査することが重要となります。技術理解、情報の取捨選択、分析力、どれを欠いても品質は担保できません。従来、Google検索などの検索エンジンを用いて技術の概要等を調べ、技術理解の促進を図ってきましたが、必要とする情報にたどり着くのには少々時間を要しました。さらに、調査設計や調査の進め方においても、キーワードの選定や分類付与については調査員の熟練度に依存しやすい傾向にありました。ノウハウの継承はありつつも、再現性―誰がやっても同じ結論に至ること―の確保は依然として大きな課題です。
 生成AIの登場は、このような特許調査に対するアプローチを急速に変えています。ただし「AIが人を置き換えるか否か」を論じることは本質ではありません 。AIと人各々が何をすべきなのか、「役割分担」が再定義されることが重要となります。この新しいAI時代において、調査プロセスの「力点」を再度確認し、調査員の時間と注意をより価値の高い工程にシフトさせる特許調査を、AIを活用して実現させる必要があります。
 本コラムでは、AIと人の役割分担を軸に、今後の調査のあり方を探ります。

2. AIが担う新しい役割 ~査読時間を「考える時間」へ~

 通常、仕事は複数のタスクで構成されています。タスクの中には、人が手を動かしてこなしてきた「作業」と、人が頭を使って考察/分析/提案する「知的活動」とに分けられると考えられます。特許調査においても、これらのタスクが調査フェーズごとに存在し、「作業」と「知的活動」の両方に時間を費やしてきました。しかし、AIは人が半ば機械的にこなしてきた「作業」の多くを代わりに行うことができ、調査を何倍にも効率的にすることができるのです。

 生成AIを用いると、必要な情報について自然言語で入力するだけで、技術要点の把握が非常に効率よく行えます。少々難解な特許公報などの査読時に補助ツールとしても活躍し、調査の大半を占める査読時間の削減効果も得られます。分類付与等においても、明確な基準を明文化して指示することで文言上の見落とし等を防ぎ再現性を上げることに寄与します。また、検索式作成においても、関連するキーワードの拡張の一助となり威力を発揮します。こうした効率化により、本当に人にしかできない部分である「知的活動」に人は集中することができ、品質の向上へとつなげることができます。

 また、これらのAI活用によって新たに創出された時間により、従来の時間的制約が緩和され、下図のような 業務内容の深化・拡張を引き起こすことができます。

 知財という業務の枠組みの中では、調査の外にある戦略、権利化、渉外などの業務との統合が促進され、知財「内」での垂直統合が進むと考えられます。 知財「外」へ目を向けると、特許以外の技術調査や市場調査、さらには政策・法規制調査や財務分析など、知財「外」への水平展開が一層進められます。時間創出は、「探す」から「戦略へつなぐ」へと業務の質を高め、企業価値を創出する取り組みに変えていけるのです。

3. 調査員が担うべき役割  ~上流・下流工程における「知的活動」への集中~

 先述したように、AIに「作業」を代行させることで、調査員は「知的活動」に集中することができます。特許調査において「知的活動」は、調査フェーズの最初と最後の部分に多く存在しており、そのフェーズにおける調査員の働きが重要となります。

 調査の上流工程において、特許調査の戦略設計を行う必要があります。調査依頼者との打ち合わせにおいて調査依頼者のニーズを把握し、調査の方向性について提案を行い、調査依頼者のニーズに沿って調査を設計しなくてはなりません。技術情報はある程度AIで収集することはできますが、調査依頼者のニーズを掴むことや仮説を立てて方向性を明確にすることは、調査員のスキルを発揮させるべきタスクとなります。

 調査の下流工程においては、AIを活用した査読によって得られた結果を分析し、設計時に立てた仮説を検証しながらレポート作成を行います。レポートの作成や仮説検証の一部(ドラフト作成やデータ整理など)にはある程度AIの補助活用は行えますが、最終的な判断は調査員が行わなければなりません。調査員が調査依頼者の ニーズを念頭においた視点を働かせ、AIの回答に対してクリティカルシンキングを発揮することで、高品質な成果物となるのです。また、無効資料調査における無効論の構築などにおいても、まだAIは補助的にしか活用できないため、最後は調査員のスキルを発揮する必要があります。さらに、調査結果を調査依頼者にプレゼンテーションしなければならない場合においても、リアルな場における調査員のスキルが大変重要となることは言うまでもありません。

4. 調査員のマインドセット・スキルセット再定義

 AIを大幅に活用したとしても、やはり最終的な調査結果の品質は調査員のスキルに依存することを述べてきました。そこで、AI時代における調査員のマインドセットとスキルセットについて考えてみましょう。

4.1 マインドセット

まず、事業・知財への貢献に対するより深いコミットメントが重要になっていくと考えられます。各調査員が行う調査の成果は、単なる文献の発見や技術動向の把握にとどまらず、自社や調査依頼企業の事業にどれだけ寄与できるかが、今後ますます重視されます。さらに、先述のとおり、知財×調査外や知財外×調査への業務拡張に伴い、調査員には業務を俯瞰する高い視座が求められるようになっていきます。

 また、調査員は「プレイヤー」からAIを「部下」に持つ「マネージャー」へと心構えを変えていくべきと考えられます。AIを活用して何らかの回答を得たとしても、その回答に対する責任は上司である人間にあります。たとえ調査員が一般従業員であっても、AIに使われるのではなく成果を生み出すためには、AIに活躍の場を積極的に与えつつも、主体は自分(調査員)であることを意識することが重要です。

 さらに、「ウォーターフォール」型から「アジャイル」型へと調査手法を変えることも重要です。従来のように各工程が完了してから次の工程に進む手法では、調査の方向性を柔軟に修正するのが難しく、手戻りなどによる工数増加が発生しやすいため、スピーディーな調査は実現しづらい状況でした。AIを活用することにより、迅速な仮説検証サイクルを回すことが可能となります。それによって、スピード感のある調査と成果創出を実現することができるのです。

4.2 スキルセット

 調査員の知財スキルは従来どおり極めて重要です。AI時代においては、知財・技術・事業などに対するより深い専門性がさらに重要になってくると考えられます。AIという非常に便利なツールを誰もが自由に使える時代となり、これまで調査員が担ってきた調査結果の中には、AIで容易に代替可能なもの(例えば、出願前調査やマクロ動向調査)も含まれると考えられます。このような状況下で真に求められる調査員は、深い専門性に裏付けられた調査結果を導き出し、AIとの差別化を図っていかなければならないのです。また、調査以外の知財や事業の知識を深めることにより、業務領域の拡張にも対応していかなければならないと考えます。

 さらに、調査員各人の「マネジメント」スキルが必要となります。調査の全体像を理解し、課題・目的を明確に設定できるだけでなく、それらを言語化するスキルを身につけることが求められます。マインドセットでも述べたように、AIをマネジメントするスキルにも通じますが、AIに自然言語で指示するためには、言語化するスキルは必須です。このスキルのあるなしによってAIの回答は大きく異なってくることを考えると、AI時代には何よりも大切なスキルと考えられます。

 最後に、AIを活用するスキルが何よりも必要です。学習モデル、プロンプト、バイブコーディングなど、日進月歩のAI分野は情報量も多く収集するだけでも大変なのが現状です。学習モデルの特性を理解し、AIが得意な範囲を見極める力も重要となっています。プロンプトの良し悪しを判断し、生成AIとチャットを繰り返す中で回答の方向性を変更できる力も必要です。バイブコーディングが可能となることで業務に必要なアプリケーションを自由に開発でき、作業効率の改善へ結びつけることができます。これらの情報は陳腐化が早い側面を持っており、何が活用できるAIなのかを判断するのも容易ではありません。組織内で上手に情報共有を行い、AI活用を促進することが求められています。

5. まとめ

 特許調査は、単なる「情報を探す仕事」から「企業戦略を担う仕事」へと進化しています。AIを適切に活用し、人との役割分担を明確にすることで、時間的制約を緩和し、知財や事業への理解を深め、企業価値の向上に寄与することが可能となります。何よりも、調査員は「プレイヤー」からAIを部下に持つ「マネージャー」へと意識を転換することが、AI時代を生き抜く鍵となります。主体性・責任感・評価力、そして相手(AI)に的確なフィードバックを行う知見が問われます。マインドセットとスキルセットを更新し、AIを積極的に活用し、知財の枠にとらわれないオープンマインドで臨む――それが、これからの調査員に求められる役割なのです。

調査1部 山下

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