ASEAN特許調査におけるデータベースの現状と問題点

2020.06.08 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

はじめに

 ASEAN諸国への関心・注目度の高まりから、ASEAN諸国に対する特許出願件数が増加傾向にあります。その一方で、法整備が不十分な国も多く、特許出願や事業の実施に際しての特許調査においては十分な結果を得られない事があります。
 以上を踏まえて、ASEAN諸国の特許調査における現状、注意事項についての情報を整理していきます。

データベース利用時の注意点

 ASEAN諸国の特許調査を行う際に注意する点として、調査に利用するデータベースの「①誤訳」「②データの収録状況」「③データの引用元」が挙げられます。

① 誤訳

 まず、①誤訳について、多くのデータベースにおいて英語での検索が可能ですが、ASEAN諸国において公用語として英語を用いている国はシンガポールとフィリピンのみであり、出願言語については、シンガポールは英語のみですが、フィリピンは英語又はフィリピン語が選択可能となっています。他の非英語公報の検索を行ったことがあればご存じかと思いますが、英語に機械翻訳された現地語の公報は誤訳が多く見られます。そのため、出願が英語以外の言語で行われる国については、適切な分類の選定により誤訳をカバーする、または現地語で検索する必要があると考えられます。

② データの収録状況

 次に②データの収録状況については、データベースの種類により、収録機関や収録件数に差があるため、対象国に応じて適切なデータベースを選択する必要があります。なお、JETROが発行する各国の「産業財産権データベースの調査報告」において、主な無料データベースの収録件数の比較について示されているのでご参照下さい。また、複数のデータベースで検索を行い、過不足を補うことで網羅性の向上が期待できます。

③ データの引用元

 最後に③データの引用元について、商用データベースや一部の無料データベースではDOCDB由来の公報を取得していることが多く、複数のデータベースで検索した母集団を統合しても、漏れなく検索することが困難です。各種データベースのデータ引用元を確認した上で、検索に使用するデータベースの選定を行う必要があります。

データベースの現状

 上記②で示したデータの収録状況について、各データベースの種類及び収録件数を具体的に下記の表に示します。ASEAN諸国の特許情報を検索できる手段には、公的機関が運営する無料データベースと、有償の商用データベースがあります。

2020年5月時点のデータ(クリックで拡大)

JETRO報告書リンク
インドネシア
(ID)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/idn/ip/pdf/search_ip_communique2016.pdf

シンガポール
(SG)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/sg/ip/pdf/search_ip_communique2016.pdf

タイ
(TH)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/th/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf

フィリピン
(PH)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/ph/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf

マレーシア
(MY)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/my/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf

ベトナム
(VN)

https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/vn/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf

 表に示すデータを国毎に見ると、無料データベース、商用データベース共に、対象国により収録件数に大きな差があることがわかります。例えばミャンマーは、現在までのところどのデータベースを用いても特許を検索することが出来ません。知財関連法の成立が2019年と日が浅いためであると思われます。ラオス、カンボジア、ブルネイも使用可能なデータベースが少なく、各国の特許庁ホームページにおいて検索することも出来ず、特許調査がしづらい国であると言えます。逆に、シンガポールは無料データベース、商用データベース共に収録件数が多く、また、シンガポール特許庁ホームページで英語検索も出来ます。更に、シンガポール、フィリピン、マレーシアは日本国特許庁が運営する外国特許情報サービス「FOPICER(フォピサー)」で検索することが可能であるなど、比較的特許調査がしやすい国であると言えます。

データベース毎の差

 次に、先程の表に示すデータを各種データベース毎に見ると、収録件数に差が見られる事がわかります。インドネシアを例に取ると、ASEAN PATENTSCOPE、PAETNTSCOPE、Shareresearchでは収録件数に大きな差はありませんが、マレーシアではASEAN PATENTSCOPE、PAETNTSCOPEと他の商用データベースで3倍程度の開きがあります。フィリピンでは、商用データベースの方が無料データベースよりも収録件数が多いことが見て取れます。

 無料データベース、商用データベース共に様々な種類があり、無料データベースであるASEAN PATENTSCOPE、PATENTSCOPEや、各国特許庁の検索ページは収録件数が多いというメリットがあります。しかしながら、各国特許庁の検索ページが現地語のみしか使えない場合があることや、複数の検索式の結果をマージできない、母集団リストをダウンロードできないなどの問題点があります。一方で、検索のしやすさ、母集団の設計しやすさを求めるなら商用データベースの使用を奨励します。商用データベースについては、ASEAN諸国の検索を行うために別途オプションの申し込みが必要になる場合がある点に注意しましょう。

 以上に示した各データベースの現状と問題点を今後のASEAN特許調査設計に活用し、調査の質をより向上させていただければと思います。

調査事業部 竹本

【参考】
JETRO報告書 各国の産業財産権データベースの調査報告
・インドネシア(2018年度版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/idn/ip/pdf/search_ip_communique2018.pdf
・シンガポール(2017年度版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/sg/ip/pdf/search_ip_communique2016.pdf
・タイ(2017年度版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/th/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf
・フィリピン(2017年度版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/ph/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf
・マレーシア(2017年度版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/my/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf
・ベトナム(2017年度版)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/vn/ip/pdf/search_ip_communique2017.pdf

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