化学系の特許公報の構成・読み方

2020.07.03 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. はじめに

 化学系の特許公報は機械系の特許公報と比べて構成が違っており、機械系の特許公報を読んでいる方からすると難しく感じる点もあると思います。化学系の特許公報の構成を理解する事で、みなさんの査読力の向上等につながれば幸いです。
(今回のコラムは、機械系の特許公報を読んだ事があるが、化学系の特許公報を読んだ事が無い方を対象としています)

2. 特許公報の構成の比較

 特許公報の構成における化学系と機械系の相違点について、それぞれの実施形態と実施例を比較しながら説明していきます。

 なお「実施形態」と「実施例」には次の様な違いがありますので整理しておきましょう。

実施形態:当業者が実施できる程度に、発明をどのように実施するかを示したもの
実施例:実施形態に基づき実験などを行った結果(実験結果のデータなどが記載されている)

※機械系だと実施例が無い場合も多く、化学系は実施形態と実施例がセットである事が多いです。(化学系において実施例を用いるのは、①化学物質のように物の構造等から製造方法を推測しにくい分野において発明を実施可能である事を明確に示す、②発明の効果を実施例を用いて証明する、といった理由が挙げられます)。

2-1 機械系の構成

 機械系の特許公報だと、複数の実施形態が羅列される事が多いです。
 基本的な実施形態が最初に説明され、その後に応用的な別の実施形態が続きます。

 特開2009-139312(ユーテック)を、例に説明します。 

 まず、基本的な実施形態である第1の実施形態(図6)では、色で何時かを知らせる時間表示手段7(図6では発光体13)、分を知らせる分表示手段8(図6では右上の発光扇形状表示体15)で構成されています。
 その後に、応用した実施形態が示されています。例えば、第2の実施形態(図7)では、分表示手段8が文字盤の外周にある発光体16となっています。
 このように基本的な実施形態、応用した実施形態の順番で、複数の実施形態が羅列されています。

2-2 化学系の構成

 一方、化学系の特許公報だと「実施形態→実施例」の順番で書かれている事が多く、この実施形態には「発明の構成要素で用いる可能性のある化合物」が多数列挙されているのが一般的です。

 特開2002-201300(埼玉ゴム工業)を例に説明します。

 この公報の発明では、熱可塑性樹脂、ゴム、無機充填材等を含む樹脂組成物を用いて樹脂組成物シートを作成し、金属鋼板に接着して補強金属鋼板を作成しています。

 そして実施形態には発明の構成要素である熱可塑性樹脂、ゴム、無機充填材等としてどのような化合物を使う可能性があるのかが示されています。

 さらに、「実施例」では、実際に実験した内容や測定データなどが示されています。ここでは、「実施例1」で樹脂組成物シートを作成し、「実施例2」以降で鋼板密着性試験等を行っています。

 このように、化学系の特許公報は機械系の特許公報に比べて特許請求の範囲から実施例まで全文に渡り広範囲に化合物が書かれています。そのため、どのような化合物を主に用いているのか分かりにくい問題があります。化学系公報に書かれた化合物を理解するには、段階的に読む必要があります。

3. 化学系公報の読み方

 化学系の特許公報の読み方としては、「TAC(タイトル、要約、特許請求の範囲)」→「実施例」→実施形態の順に読み進めるのが良いと思います。
 まずTACで概略を掴み、次に化合物の構造がより明確である実施例を先に読みます(実施形態は飛ばします)。それでも分からない点があれば、実施形態まで戻って読みます。

 以上を踏まえて先程の特開2002-201300(埼玉ゴム工業)を読んでみましょう。

 要約や特許請求の範囲を見ると、この発明では、熱可塑性樹脂、ゴム、無機充填材等を含む樹脂組成物を用いて樹脂組成物シートを作成し、金属鋼板に接着して補強金属鋼板を作る事が分かります。
 また請求項3では熱可塑性樹脂が具体的にエチレン-メタクリル酸コポリマーであると具体的に示されています。

 続いて実施例1を見ると、

熱可塑性樹脂:エチレン/メタクリル酸コポリマー樹脂(ニュクレル、デュポン)
架橋可能なゴム:数平均分子量4000のゴム(0061、JSR)
粘着付与剤:芳香族変性テルペン樹脂(YSTO85、ヤスハラケミカル
発泡剤:ks(三協化成)

が使われています。

 もし、「エチレン/メタクリル酸コポリマー樹脂と粘着付与剤の組成物」を探すのであれば、特許請求の範囲と実施例で示されているので、実施形態まで読む必要はありません。
 しかし、「エチレン/メタクリル酸コポリマー樹脂とシリコーンゴム、粘着付与剤の組成物」を探すのであれば、実施例ではシリコーンゴムが示されてないので、実施形態 にシリコーンゴムが示されているかを確認します。

 実施形態のゴムを見ると、シリコーンゴムが示されており、この発明が本文の記載を含めて「エチレン/メタクリル酸コポリマー樹脂とシリコーンゴム、粘着付与剤の組成物」に該当する事が分かりました。

 実施形態を読む時も、探したい要素の所を見る事で、効率よく読む事ができます。

4. おわりに

 今回は化学系の特許公報の基本的な構成とその読み方を書きました。
 化学系の特許公報の構成を理解する事で、必要な箇所に絞って読む事ができ、効率よく査読ができると思います。
 実施例も出願人によって書き方が異なるので、色々な公報を読み経験値を上げて頂ければと思います。

調査事業部 和智

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