(ショートレポート)e-fuelに関する特許出願動向調査

2022.11.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. 調査背景

 2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、経済産業省により2020年末に策定された「グリーン成長戦略」のもと、あらゆる分野・産業で様々な取り組みが行われている。自動車業界においても、既存のエンジン車を利用して脱炭素に向かうべく、合成燃料の開発が進められている※1
 合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料である。製油所や工場などから排出されたCO2を原料に、再生可能エネルギー(再エネ)由来の水素や電力と合成技術を組み合わせることで、カーボンニュートラルな燃料とすることができ、このような再エネ由来の水素を用いた合成燃料は「e-fuel」と呼ばれている。
 NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)もエンジン向けの液体合成燃料を一貫製造する技術の確立に取り組んでおり※2、今後のe-fuelの発展が望まれている。そこで、e-fuelに関連する特許出願について調査した。

※1:経済産業省資源エネルギー庁HPより
※2:NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)HPより

2. 技術概要

 e-fuelとは、再生可能エネルギーで発電した余剰電力の貯蔵・利用方法の一つで、余剰電力により製造した水素や、その水素と濃縮回収した二酸化炭素やバイオガス中の二酸化炭素を原料として合成・製造したカーボンニュートラルな燃料のこと。なかでも、水電解により製造した水素や、その水素と二酸化炭素からメタネーションにより合成したメタンなどの気体燃料として貯蔵・利用する方法は、 Power to Gas (PtG,P2G)とも呼ばれる。
 また、水素と二酸化炭素から、直接あるいは合成ガスなどを経由し、ガソリンや軽油相当の炭化水素液体燃料やメタノールなどの合成を行う方法(Power to Liquids, Power to Fuel)が検討されている。※3

※3:機械工学事典より

3. 調査戦略(概要)

 本調査では以下のような調査戦略の下、特許母集団を作成した。

・国内の動向を主として把握する目的として、日本国出願のみを対象とした。
 (公報種別は、公開特許、特許、公開実用、実用)
・e-fuelを生成する際に使用するFT(Fischer Tropschフィッシャー・トロプシュ)反応に注目し、FT合成を観点する下記特許分類(Fターム)を使用した。
・キーワード(KW)は、代替可能/次世代燃料とカーボンニュートラルに関連するものを本文全文対象に設定し、特許分類に掛け合わせた。

 上記戦略にて作成された集団、100件ほどを母集団とした。

<使用特許分類>
4H129-BB07 ・・FT合成
4H129-BB06 ・化学合成
4H129-BB00 液体炭化水素製造処理の種類
4H129-. 石油精製,液体炭化水素混合物の製造 (C10G1/00-99/00) [リスト再作成旧4H029、解析要否変更(H20)、1976年以降に発行された文献を解析対象としている]
—————————————————————–
4H129-BC43 ・・FT合成方法
4H129-BC41 ・化学合成方法,装置
4H129-BC00 処理方法,装置の細部
4H129-. 石油精製,液体炭化水素混合物の製造 (C10G1/00-99/00) [リスト再作成旧4H029、解析要否変更(H20)、1976年以降に発行された文献を解析対象としている]
—————————————————————–
4H129-BC46 ・・FT合成装置
4H129-BC41 ・化学合成方法,装置
4H129-BC00 処理方法,装置の細部
4H129-. 石油精製,液体炭化水素混合物の製造 (C10G1/00-99/00) [リスト再作成旧4H029、解析要否変更(H20)、1976年以降に発行された文献を解析対象としている]

4. 関連出願紹介

 e-fuelに関する出願をいくつか紹介する。

※オリジナル公報より内容を一部修正、追記しています。

特許第5155147号
【出願日】2006/03/16
【発明の名称】合成炭化水素化合物を生成するためのシステム、方法、および組成物
【出願人】フュエルコア エルエルシー
【課題】 燃焼による生成物を炭化水素化合物燃料にリサイクルする生成システムに対して長年のニーズがあり、エネルギー効率に重点を置いたそのようなシステムが求められている。
【解決手段】 炭化水素化合物の燃焼による生成物(二酸化炭素ガスまたは一酸化炭素ガス、あるいは両方、および水)をリサイクルする、炭化水素化合物または燃料を精製するプロセスおよびシステム。リサイクルのためのエネルギーは、好ましくは化石系燃料ではなく、核燃料または再生可能なエネルギーから得られる電気である。水を電解し、水素を使用して、外部から供給された二酸化炭素ガスを一酸化炭素ガスに還元する。その生成された一酸化炭素を、外部から供給された一酸化炭素および水素と共にフィッシャー・トロプシュ反応器で使用し、上流側をガソリン、ジェット燃料、灯油、ディーゼル燃料、およびその他の燃料に向けて改良する。
【効果】 十分な電気エネルギー、一酸化炭素および/または二酸化炭素が利用可能な場合、一日約500,000ガロンまたはそれ以上の燃料を一つの設備で生産することができる。

特許第5155147号(J-PlatPat公報リンク)

※オリジナル公報より内容を一部修正、追記しています。

特許第6999213号
【出願日】2021/9/9
【発明の名称】カーボンニュートラル液体燃料製造システム
【出願人】株式会社 ユーリカ エンジニアリング
【課題】 カーボンニュートラルな液体燃料を高い熱効率、低コストで製造することに課題があった。
【解決手段】 バイオマス由来燃料からカーボンニュートラルな電力と電力グリッドから供給される再生エネルギー由来電力とを利用し、再熱装置で昇温された高温水蒸気を用いて合成ガスを生成し、合成ガスを所定の温度・圧力環境で触媒によって反応させ、FT粗油または粗メタノールを合成する。
【効果】 カーボンニュートラルな電力で炭酸ガスリッチな排ガスを排出し、炭酸ガスを効率的に低コストで分離することができるので、合成ガスを高い熱効率で容易に製造し、カーボンニュートラルな液体燃料を効率的に低コストで製造することができる。

特許第6999213号(J-PlatPat公報リンク)

※オリジナル公報より内容を一部修正、追記しています。

特許第7036853号
【出願日】2020/3/19
【発明の名称】燃料製造システム
【出願人】本田技研工業株式会社
【課題】 再生可能エネルギーは常に一定量発生しているわけではないため、水素タンク内の水素残量は環境条件に応じて大きく変動してしまうことで、再生可能エネルギーを十分に利用できていなかった。
【解決手段】 バイオマス原料をガス化し、それによって生成された合成ガスから液体燃料を製造する液体燃料製造装置と、再生可能エネルギーを用いて発電した電力によって水から水素を生成し、その水素を貯留する水素タンクとを備え、水素の使用量および水素の生成量を制御することで水素タンク内の水素残量を制御する。
【効果】 電解装置によって生成した水素を水素タンクに貯留することにより、環境条件の変動によらず再生可能エネルギーを十分に利用して水素を生成しつつ、必要に応じて水素タンク内の水素をガス化装置に供給できるので、再生可能エネルギーを十分に利用しながら液体燃料を製造することができる。

特許第7036853号(J-PlatPat公報リンク)

5. まとめ

 e-fuelについて、複数企業からの出願を確認することができた。解決課題としては効率化やコストダウン、再生可能エネルギーの変動対策など、実用化に向けた開発がなされていることが見て取れた。カーボンニュートラル実現に向け、今後のe-fuel開発及び普及促進が期待される。

調査事業部 山下

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