言語化しにくい要素を含んだ調査

2022.10.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. はじめに

 特許調査において、調査内容から、要素を概念化し、Fターム等の特許分類 やキーワードを組み合わせて調査母集団を作成します。しかし 、「化学構造式」の様な言語化しにくい要素を含んだ調査の場合には、要素を概念化する事が困難な場合があります。そんな「化学構造式」の様な言語化しにくい要素を含んだ調査に関して、これまで私が学んできた調査方法の一部をご紹介します。

2. 母集団の作成

2.1 特許分類 やキーワードを組み合わせた母集団の作成

 まず初めに、特許分類やキーワードを組み合わせて、「化学構造式」の様な言語化しにくい要素を含んだ母集団を作成する場合では以下の様な方法が考えられます。

① 分野や「化学構造式」以外の概念を使用する
② 「化学構造式」中の元素や官能基に関しての特許分類やキーワードを使用する

 しかし、言語化しにくい要素を特許分類やキーワードを組み合わせて母集団を作成すると、「化学構造式」そのものを含んだ文献だけではなく、調査の目的とする文献以外を多く含んだ適合率の低い母集団となってしまう虞があります。

2.2 構造検索を用いた母集団の作成

 そこで、「化学構造式」の様な言語化しにくい要素を含んだ調査の場合には構造検索を用いて母集団を作成する事が大変有効です。構造検索とは、「化学構造式」を直接書いて、「化学構造式」から検索を行う方法で、「化学構造式」そのものずばりの検索や、「化学構造式」の部分的な構造を含む誘導体の検索ができ、その「化学構造式」が記載されている文献を集める事が出来ます。私が構造検索を行う場合には、化学情報協会様の「CAS STNext(以下STN)」を使用し、調査母集団を作成しています。

 検索方法を簡単に説明しますと、まず「STN」を使用して化学物質のデータベースである「REGISTRYファイル」を用いて、目的の「化学構造式」の構造を検索します。次に、「REGISTRYファイル」での構造検索の検索結果を「CAS FILES中の調査目的に沿ったファイル (CAplus等)」にクロスオーバーさせる事で、目的の「化学構造式」が記載(登録)されている文献をHITさせます。
※詳しくは【JAICI化学情報協会STN化学物質検索】を参照下さい。

3. 母集団の融合

 さて、以上の様に、特許分類やキーワードを組み合わせた母集団と構造検索を使用した母集団、2つの母集団が出来ましたが、どちらの母集団で調査を行うのが良いか2つの母集団の特徴を見てみます。

 まず、構造検索を使用した母集団は、探したい「化学構造式」が記載(登録)されている文献がHITされ、一般的には適合率が高い母集団となります。しかし、具体的な物質が示されておらず、マーカッシュ形式のみで記載されている場合や、「化学構造式」を言語のみで表現されている公報等は、母集団から落ちてしまう場合があります。

 次に、特許分類やキーワードを組み合わせた母集団は、目的とする化合物を含めその上位概念的な化合物まで母集団に含む事ができ、一般的に再現率の高い母集団となります。しかし、目的とする公報に特許分類が付与されていなかった場合やキーワードが使用されていなかった場合は、目的の公報を落としてしまう場合があります。

 では2つの母集団で調査を行うのが良いのですが、各母集団で同じ文献を重複して調査する虞が生じてしまいます。また、日頃使い慣れた特許データベースを使用して査読を行う方が効率的な調査が行えます。

 そこで、私が行っている手法として、まず先ほどの「STN」を使用した【構造検索】の結果から公報番号をダウンロードします。次に、通常使用している特許データベースで、先程の公報番号を照会します。そして、通常使用している特許データベースで作成した特許分類やキーワードを組み合わせた母集団と構造検索を使用した母集団を合わせ、重複を排除します。この様に2つの母集団を1つの母集団に融合させた後に、通常使用している特許データベースを使用して調査査読を進めていきます。

 以上の様に進める事で、構造検索・特許分類・キーワードといった多角的な方面から調査内容にアプローチをかけた1つの母集団を作成する事が出来ます。

4. おわりに

 【構造検索】は「化学構造式」の様な言語化しにくい要素を含んだ調査の手法の1つとして大変有効です。そして、そこに特許分類やキーワードを組み合わせた母集団を組み合わせる事によって、より再現率の高い母集団が作成され、調査目的を達成する確率を上げる事ができます。また、化学バイオ・医薬の分野では、言語化しにくい要素として「化学構造式」以外にもタンパク質や核酸配列等もありますが、今回の手法と同様に配列検索等と特許分類やキーワードを組み合わせた母集団を組み合わせる事で、より再現率の高い母集団を作成する事ができるでしょう。

調査事業部 秋葉

【参考】

CAS STNext
https://www.jaici.or.jp/stn-ip-protection-suite/cas-stnext/

JAICI化学情報協会 STN化学物質検索
https://www.jaici.or.jp/application/files/2716/5354/7916/text_chem.pdf

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