特許調査のアウトソーシングのメリット、デメリット(2)
2019.08.09 | 調査コラム
特許調査の外部委託を検討する際のポイントとして、そのメリットとデメリットを2回に分けてお送りしています。この後半では前半のメリットに続き、デメリット側を見ていきます。
【前半の記事】→ 特許調査のアウトソーシングのメリット、デメリット(1)
目次(前半)
1. はじめに
2. アウトソーシング一般のメリット、デメリット
【一般的なメリット】
【一般的なデメリット】
3. 特許調査におけるメリット
A) 人員の調整(増減の調整)、業務の繁閑差対応、固定費の変動費化
B) 業務の整理とコア業務の明確化
C) 社員の負担減(コア業務への注力)
D) 外部の専門的ノウハウの活用
E) 外部設備の活用
F) コスト削減
4. 特許調査におけるデメリット
G) 業務の標準化作業の手間
社内の業務ルールに適合させるなど、調査や報告の方法を指定する場合は要件化が必要となります。また、案件単位では少なくとも依頼内容が伝わる程度に整理し言語化する必要があります。これらの手間はメリット(業務の整理)と表裏の関係ではありますが、問題としてはこの手間をどこまで許容でき、どこまで減らせるかが論点となるでしょう。手間を減らす方法は大きく4つあります。
a.既存の社内リソースを再利用する
調査方法の指定であれば社内のマニュアルやそれに類するテキスト、調査内容の説明であれば発明シートの類や業務の過程で生じた資料などは無いでしょうか。そういった既存の情報があればゼロから作業を始める必要はありません。
b.既存の社外リソースを再利用する
同じ人が同じ事をすれば追加で必要な手間は最小限で済みます。そのため同じ調査会社を利用する場合でも同じ担当者を指名したり、依頼内容毎に調査会社を使い分けたりするなども実際に行われています。
c.手間を共通化する
関連するテーマの調査を一緒に依頼することは良く行われますが、更に考えると特許調査以外にも同様の手間が生じるのであれば「調査」と「調査以外」を合わせて依頼することで「調査」単独での手間は減少すると言えます。例えば権利化の場面では、調査と出願をセットで依頼する、場合によっては調査前の発明支援の段階から依頼するという事も考えられます。これは大企業では難しいかもしれませんが、スタートアップや中小企業では検討しやすいのではないでしょうか。
d.手間の少ない調査を選別する
状況にもよりますが、そもそも委託時に手間のかかる調査を委託しない、という対策も考えられます。調査案件がいくつもある場合は、シンプルな案件から優先的に委託することも可能です。例えば無効資料調査は対象の公報番号と請求項(または構成要素)が分かれば調査可能ですので比較的委託の手間の少ない調査と言えます。
H) ノウハウの蓄積が困難
調査実務の経験がなければ当然そのノウハウ蓄積も難しいのですが、実際の外部委託の比率は1~2割に留まるようです。これは平均の値ですのでもっと比率の高い組織もあるでしょうが、「特許調査のノウハウの蓄積が困難」とする程のデメリットは生じにくい状況ではあります。
それよりもあるとすればノウハウの偏在でしょう。例えば特許調査を全て知財部門が担うとする場合、技術者側に調査ノウハウが蓄積しません。このため、研究開発の技術者自らが多少でも特許調査を実施する事を必須化している組織もあります。こうすることで、技術者自身の知見が洗練される事は勿論、技術者と知財担当者(調査の外部委託先も含む)との間に特許や特許調査という「共通言語」を持つ事ができ、コミュニケーションが改善し、調査品質が向上し、結果として知財の強化に貢献するという効果が期待できます。
I ) ガバナンスの弱体化
自社内の業務が外部へ出ていくと、今まで光らせていた目が届かなくなります。調査業務そのものは契約ベースで進める事により透明化され、その点においてガバナンスは強化される効果があります。しかし特許調査では扱う情報の機密性が高いことも多く、秘密保持契約は結ぶものの情報漏洩への対策は委託先にある程度依存することになります。
そこで外部委託時には情報セキュリティに関するルールを設ける事もあるのですが、外部組織であるが故の限界やコスト面での障害もある点には注意が必要です。例えば立ち入り検査などで他の取引先の秘密保持を侵すおそれがある場合は受け入れられないのではないでしょうか。
このデメリットを乗り越えるには可能な範囲でルールを設定すること、問題が発生した際の情報共有が双方向に行われる体制を作ること、そして最後には信頼できる委託先かどうかが重要となります。
5. さいごに
以上、「特許調査におけるアウトソーシングのメリット・デメリット」を整理してみましたが、如何でしたでしょうか。初めて外部委託を検討される方や既存の委託先の見直しなどで少しでも参考になれば幸いです。
さて、最後のガバナンスの弱体化で「信頼できる委託先か」と書きましたが、これはガバナンスの問題に限らず取引の大原則です。この点に関しては是非、委託先の調査会社を訪れてみてください。可能なら調査員の職場環境も見てみてください。整理整頓されていますか?不安を覚える資料の扱いをしていませんか?情報セキュリティに対する活動が日常に存在しますか?「起こる可能性があればいつか実際に起こる」といったマーフィーの法則の様に、予兆はどこかに生じるものです。逆に調査会社はこれらの予兆に敏感になり、日々潰していくことで未然に防止し信頼を醸成していく必要があるでしょう。最後に自らの戒めとした所で終わりたいと思います。
営業部 小倉
<参考>
工業所有権情報・研修館『特許調査従事者の現状と今後に関する調査研究報告書』(平成24年3月30日)
https://www.inpit.go.jp/jinzai/topic/topic100011.html
アデコ株式会社 Vistas Adecco「VOL.27 特集:アウトソーシングの現在と未来」
https://www.adeccogroup.jp/power-of-work/vistas/adeccos_eye/27/