特許調査のアウトソーシングのメリット、デメリット(1)
2019.08.01 | 調査コラム
目次
1. はじめに
特許事務所を始め、日本国内だけでも知財系の調査サービスを提供する企業は多くあります(アズテックもその一つです)。この様ないわゆる外注業者への業務委託を利用したり利用を検討したりすることは、この知財業界にいる方であれば経験のある方も多いのではないでしょうか。今回は調査会社側の視点から、調査委託のメリット・デメリットを整理してみたいと思います。ただし「調査会社側の視点」と言えど我田引水とならない様に客観的に論じるため、ここではアウトソーシングの一般論に沿って進めていきます。
(以下後半の記事へ続きます。)
4. 特許調査におけるデメリット
G) 業務の標準化作業の手間
H) ノウハウの蓄積が困難
I ) ガバナンスの弱体化
5. さいごに
2. アウトソーシング一般のメリット、デメリット
まずはアウトソーシングの目的であるその効果を見ていきます。特許調査に限らずアウトソーシングの一般的な効果としては次の様な点が挙げられます。
【一般的なメリット】
- 社員の負担減
- 業務の繁閑差対応
- 人員の調整(増減の調整)
- 固定費の変動費化
- 外部の専門的ノウハウの活用
- 業務の整理とコア業務の明確化
- 外部設備の活用
- コスト削減
【一般的なデメリット】
- 業務の標準化作業の手間
- ノウハウの蓄積が困難
- ガバナンスの弱体化
ではこれらを特許調査に当てはめて考えるとどうなるでしょうか。次で詳細を見ていきます。
3. 特許調査におけるメリット
A) 人員の調整(増減の調整)、業務の繁閑差対応、固定費の変動費化
個人的に良く耳にする外部委託の検討理由として「マンパワーが足りない」「ただし部門の人数は増やせない」というものがあります。固定費を下げ組織のスリム化効率化を図るなど、予算や組織の都合上から人的な補充が難しいケースです。また、部門の業務に繁閑がありピーク時に合わせた人員計画が難しい場合も同様です。
調査の外部委託は調査が必要になった都度依頼が可能ですので、実務の状況に応じた柔軟性は分かりやすいメリットといえるでしょう。
B) 業務の整理とコア業務の明確化
調査を社外に依頼する際、対象を言語化し第三者の目が入ることにより自然と情報が整理され、発明のポイントや知財部門としての対応方針を明確にすることができます。それだけでなく、社外との分業を意識することで「どこからを外注しどこまでを内製化すべきか」「本来の役割は何か」の様に自らのコア業務や「あるべき姿」を意識できる様になるなど、業務の整理にも繋がります。
C) 社員の負担減(コア業務への注力)
調査を外部委託した分だけその調査業務から解放され、調査業務以外へ対応する時間の確保が可能となります。その時間で本来注力すべきであったコア業務へリソースを投下できる様になります。メンバーがコア業務に注力できた時、何が出来る様になりどれ程の価値を生み出し得るでしょうか。外部委託はこうした逸失利益も含めて検討する必要があります。
例えば「強い特許権を取得する」というミッションが課されていれば知財戦略を立案し特許ポートフォリオを組んでもいいですし、それらが既にあれば発明者と連携して発明の支援もできるでしょう。
他にも発明のヒアリングの密度を上げたり、方法を見直したり、開発や製造の現場をより深く知るだけでも違うかもしれません。外部委託はその成果物だけでなくこれらのリソースも買っていると言えます。
D) 外部の専門的ノウハウの活用
それぞれの調査会社には大量の調査実務を通じたノウハウが蓄積されています。それを今すぐに自社の能力として業務に組み込む事ができます。
また、調査設計や報告書にはノウハウのエッセンスが盛り込まれています。方法論はいくつもあるためそれらが絶対的に正しいと言うものではありませんが、調査会社の方法を参考にして自社との差異を理解するだけでも自社のスキル教育にとって良い教材になるのではないでしょうか。(実際、ありがたい事にアズテック作成の検索式を社内教育に活用されているというお声をいただいた事もあります。)
E) 外部設備の活用
特許調査における必要な設備は限られますが、例えば商用の特許DBをあまり利用しない場合には調査だけの為に特許DBの契約をせずに(あるいは契約数を限定し)委託してしまった方がトータルのコスト効率が上がる可能性があります。
なお、調査会社は特許DBに限らず調査用システムの契約が一般ユーザーとは異なります。特に非特許系では従量制の料金体系となる場合があるため、調査見積もりにDB費用やシステム利用料などが含まれる際には自社のコストと比較してみましょう。
F) コスト削減
アウトソーシングの受託側はその受託作業を専門的に且つ恒常的に行っているから効率的である、というのが一般論ですが特許調査でも同様でしょうか。
まず効率化のためには標準化が欠かせません。確かに諸々のツールやフォーマットは標準化できますし、種類によっては標準化しやすい調査もある一方、一部には調査の標準化に馴染まないケースもあります。
また、調査は1件毎、委託者毎に内容、方法、出力が異なるというオーダーメイドの性質を持つため、そういった内容などを共有し、理解し、調整するといった調査のオーバーヘッドは調査毎に一定量発生します(後述のデメリット「G)業務の標準化作業の手間」もその一つ)。このため、オーバーヘッドの比率が高まると1件の調査単体では期待するほどの経済性を得られない可能性もあり得ます。
例えば、
- 込み入った内容を整理するのにも委託先に理解してもらうのにも時間がかかり、報告書の修正も発生したため自分で調査をした方が早かった。
- 調査は問題無いが出張費の比率が上昇してしまい費用対効果が上がらなかった。
特許調査におけるこれらの性質のため、コストに関してはこれまでに見てきたメリットA~Eを含めトータルでのコストメリットを検討する必要がある他、コスト削減を追求する場合は調査のオーバーヘッドを減らす工夫も必要となります。
ここまでは特許調査をアウトソーシングする際のメリットを見ていきました。後半では逆のデメリットに触れていきます。(後半の記事へ続きます)
営業部 小倉