日中知財法の相違点

2021.01.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1.はじめに

 中国進出にあたっては有効な知財戦略を立てるためには、日本の知財法との相違点を理解することが重要である。当方は日本でサーチャーをしている中国人として日本と中国を比較する事が多かったため、本稿では専利(日本における特許、実用新案、意匠に相当)制度について、特に特許における日本と中国の主な相違点、及び、中国調査時の注意点を紹介する。(2020年12月時点)

2.中国と日本の特許・実用新案、意匠に関する制度の比較

(1)権利の存続期間と適用法律

※1:日本では「特許法等の一部を改正する法律」の施行により、令和2年(2020年)4月1日以降の意匠登録出願から意匠権の存続期間が従来の登録日からの20年から出願日からの25年に変更になった。

※2:一方中国では、ハーグ協定の加入のための法の整備として、第4回専利法改正において匠権の存続期間を現行法の「10年」から「15年」に改正された。また、部分意匠制度の導入に加え保護期間が延長されることで、意匠権者の保護がより一層強化される。改正法は2020年10月17日に可決され、2021年6月1日より施行される。

(2) 特許出願の審査

※3:第六条 当事者が不可抗力の事由により、専利法又は本細則に規定する期限或いは国務院特許行政部門が指定した期限に間に合わなかったため、その権利を消滅させた場合は、障碍が取り除かれた日より起算して2ヶ月以内に、遅くても期限の満了日より起算して2年以内に、国務院特許行政部門に権利の回復を請求することが出来る。

なお、実用新案は両国とも無審査、意匠は日本では審査あり、中国は審査なし。

(3) 特許出願制度全体

※4:特許と実用新案は秘密審査の対象であり、意匠が対象外である(専利法第20条)。

※5:「マルチ従属クレーム」とは「複数のクレームを引用するクレーム」のこと。「マルチクレーム」とも。

日本ではマルチ従属クレームに関する制限がないが、中国では下記の例のようなマルチ・マルチ従属クレーム(マルチ従属クレームに従属するマルチ従属クレーム)は拒絶される。(中国専利法実施細則22条)。

(例)

【請求項1】○○と、△△とを備えることを特徴とする□□装置。
【請求項2】××を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の□□装置。
【請求項3】
前記○○は、◎◎を有することを特徴とする請求項1または2に記載の□□装置。
(マルチ従属クレーム)
【請求項4】
前記△△は、◇◇であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の□□装置。
(マルチ・マルチ従属クレーム)

3. 中国調査時の注意点

(1) 実用新案

中国では実用新案の出願が発明特許並みに多い。その理由として、同じ内容の発明について、特許と実用新案を並行して出願することが出来、特許の登録査定時に、実用新案権を放棄すれば特許権が付与される制度(中国専利法9条)がある。

特許が権利化されるまでの時間は長い(3~5年程度)ため、特許付与までの間の権利保持に有効活用すべきと考えられる。そのため中国に関する特許調査の場合は、実用新案も特許と並行に調査する必要があることに注意して頂きたい。

(2) 先願と拡大先願

日本では先願と拡大先願は下記のように定義している。

先願判断:先願および後願である特許出願・実用新案登録出願の各【請求項】に記載された発明・考案どうしが同一であること(特許法39条1項)。

拡大先願判断: 先願の出願当初の明細書又は図面に記載された発明・考案と、後願の各【請求項】に記載された発明・考案どうしが同一であること(特許法29条の2)。

一方中国では、中国専利法22条2項における新規性の規定の中で、日本特許法29条の2に相当する部分が含まれているものの、日本とは異なり発明者若しくは出願人が同一であっても拡大先願が適用される点には注意を要する。

4.おわりに

日本の特許制度と中国の専利制度は、類似したものが多く見られるが、相違するところも幾つか存在している。それを踏まえ、中国調査への影響も注意すべきである。当方は中国人サーチャーとして、常に成長を目指し今後も中国調査に貢献できるよう努力し続けたい。

調査事業部 林

【参考】

アジアにおける知財環境の概要
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/country/asia/

特許制度の日・米・中比較
https://www.rita-pat.com/20100916_shiryou.pdf

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