(ショートレポート)「パワードスーツ・人工筋肉」に関する特許出願動向調査

2023.02.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. 技術概要/背景

 人が装着することで動きや身体能力を強化、サポートしてくれる外骨格型や衣服の装置は、パワードスーツと呼ばれている。強化スーツやアシストスーツとも呼ばれ、実際に利用されている業種としては主に介護や物流の現場で、重い荷物を持ち上げたり、要介護者をベッドから車椅子へ移動させる時のサポートなどに利用すれば作業者の体への負担軽減に繋がり、腰痛予防などに役立っている。
 パワードスーツ には大きく分けて、①モータなどの動力を使ってサポートするタイプ(下図)と、②ゴムやバネなどの人工筋肉を使ってサポートするタイプがある。


 動力を必要としない人工筋肉タイプのものは、アシストするパワーの微調整が難しく、アシスト力が弱いといったことがあるが、安価で故障しにくく軽量で取り扱いが簡単という長所がある。
 動力タイプのものは、バッテリーなどの動力源が必要であるので重く、メンテナンスが必要な上、高価になるが、アシストのパワーが強く力の使い方の微調整が可能なものもある。

出典:
 https://www.kantsu.com/terms/4661/
 https://www.mod.go.jp/atla/center/poweredsuit.html

2. 調査戦略(概要)

 本調査では、上記の①②のそれぞれについて、国内の出願人動向を把握することを目的とした。
 母集団の作成に際しては、まず「パワードスーツ」「人工筋肉」に関連するキーワード群で予備検索を行って仮の母集団を作成し、この中で使用頻度の高い特許分類(Fターム)を抽出した。
 その後、抽出したFタームの掛け合わせにより、上記①②の概念を包含する母集団を作成した。

■検索式(対象国:JP)

・検索式①:モータタイプ
式1:3C707XK06(アシスト対象の身体に装着)
   × 3C707HS27(電動機
式2:4C046AA42(リハビリ用具>アシスト力の付与)+4C046AA49(リハビリ用具>筋力の補助)
   × 4C046DD36(リハビリ用具>装着型)+4C046DD41(リハビリ用具>ベルト,帯状部材)
   × 4C046DD02(リハビリ用具>電動モータ

⇒式1+式2:1156件

・検索式②:人工筋肉タイプ (※駆動源としてモータを使用していないもの)
式1:3C707XK06(アシスト対象の身体に装着)
   × 3C707HS21(人工筋肉
式2:4C046AA42(リハビリ用具>アシスト力の付与)+4C046AA49(リハビリ用具>筋力の補助)
   × 4C046DD36(リハビリ用具>装着型)+4C046DD41(リハビリ用具>ベルト,帯状部材)
   × 4C046DD05(リハビリ用具>人工筋肉)+4C046DD06(リハビリ用具>弾性体の反発,復元

⇒(式1+式2)-①:415件

<使用特許分類>

3. 出願人傾向(ランキング)

■ランキング

・①モータタイプ

・②人工筋肉タイプ

■出願人傾向

 ①のモータタイプでは、上位に自動車メーカ、重機メーカ、そのサプライヤなどが入ってきており、自社の技術を活かした出願が行われていることが伺える。
 ②の人工筋肉タイプでは、大学がトップとなっているが、①②ともに、大学、大学発ベンチャー企業からの出願人がランキングに入っており、またメーカと大学の共同出願も散見され、いわゆる研究機関も本調査関連技術の開発の中心を担っていることがわかる。

4. 関連特許紹介

■特許第7095407号(①モータタイプ)

 権利者の株式会社ジェイテクトは、ランキングにある一部出願人が開発を凍結しているとの一般情報もある中、近年の出願件数を伸ばしている。会社HPによると、製品化の分野は作業現場や介護現場など多岐に渡っている。
出典:
 https://active-life.jp/jpaslumbus/
 https://active-life.jp/jpasfleairy/

※オリジナル公報より内容を一部修正、追記しています。

【出願日】 2018/5/28
【発明の名称】 アシスト装置
【権利者】 株式会社ジェイテクト
【課題】 対象者の持ち上げや持ち下げの動作時の腕の動きに干渉することなく、より軽量なアシスト装置を提供することを課題とする。
【発明の概要(請求項1)】 
対象者の少なくとも腰周りに装着される身体装着具と、・・・動作を支援するアシストトルクを伝達する大腿ユニットと、・・・アシストトルクを発生するアクチュエータを有するトルク発生部と、を有するアシスト装置であって、・・・
身体装着具における対象者の腰よりも上方には、制御ボックスが配置されており、・・・制御ボックスには、前記トルク発生部と、前記トルク発生部を制御する制御手段と、が収容されており、・・・
身体装着具は・・・右フレーム及び左フレームと、を有し、・・・前記右フレーム及び前記左フレームは、前記アシスト装置を装着した対象者に対する前後方向の剛性よりも、前記対象者に対する左右方向の剛性のほうが弱い構造を有しており、前記対象者の腰幅に応じて左右方向において湾曲するように弾性変形する、アシスト装置。
【効果】 対象者の腰よりも上方に配置した制御ボックスに、トルク発生部と制御手段とをまとめて収容しているので、対象者の持ち上げや持ち下げの動作時の腕の動きに干渉するような、かさばるものが無い。また、ケース等を共有することが可能となり、より軽量化することができる。

特許第7095407号(J-PlatPat公報リンク)

■特許第7043420号(②人工筋肉タイプ)
 権利者の株式会社イノフィスは、東京理科大学発のベンチャー企業であり、実用化された製品「マッスルスーツ」は2022年のグッドデザイン賞も受賞している。
出典:https://www.g-mark.org/award/describe/53086?token=GlNAYWhOtx

※オリジナル公報より内容を一部修正、追記しています。

【出願日】 2017/12/21
【発明の名称】 伸展アシスト装置
【権利者】 株式会社イノフィス
【課題】 正常な歩行を実現するためにトレーニングを行う場合、関節の可動域を広げることが重要である。り、本発明は上記事実を考慮し、関節の可動をアシストすることができる伸展アシスト装置を得ることが目的である。
【発明の概要(請求項1)】 
使用者の大腿部の前部に係合される大腿部係合部と、
人工筋肉により構成され、作動されることで、前記大腿部係合部から前記使用者の大腿部に後方側への力を作用させて、前記使用者の大腿部を上体に対して後方側へ相対変位させる伸展力付与部と、
前記人工筋肉の端部に係止されるワイヤと、
回転軸が前記使用者の股関節に対応する第1軸に位置して前記ワイヤの一部が係止される第1プーリと、
回転軸が前記使用者の仙腸関節に対応する第2軸に位置して前記ワイヤの中間部をガイドする第2プーリと、
を備えた伸展アシスト装置。
【効果】 本発明に係る伸展アシスト装置は、関節の可動をアシストすることができる、という優れた効果を有する。

特許第7043420号(J-PlatPat公報リンク)

■特許第6849192号(②人工筋肉タイプ)
 人工筋肉タイプのランキングでトップの中央大学は、企業との共同出願に特徴があり、複数の企業との共同出願が散見される。

※オリジナル公報より内容を一部修正、追記しています。

【出願日】 2018/8/3
【発明の名称】 筋力補助装置及び操作装置
【権利者】 学校法人中央大学;ナブテスコ株式会社
【課題】 筋力補助装置の操作性の改善を目的とする。
【発明の概要(請求項1)】 
着用者の体に作用する力を出力する力供給部と、
前記着用者が操作する入力部と、
前記入力部が操作されてから予め設定された時間だけ遅れて前記力供給部に前記力を出力するための動作を開始させる制御部と、を備える、筋力補助装置。
【効果】 筋力補助装置の操作性の改善することができる。

特許第6849192号(J-PlatPat公報リンク)

5. まとめ

 「パワードスーツ・人工筋肉」については、自社技術を転用した大手メーカのほか、大学などの研究機関も注力していることが分かった。高齢化社会の介護現場での需要の高まりなど、マーケットが広がるにつれて、出願人の傾向がどのように変わっていくかが注目される。

調査事業部  柏木

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