無効資料調査の基本

2019.10.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. はじめに

 特許調査には、出願前調査、他社権利調査、技術動向調査などの種類がありますが、中でも無効資料調査は、法的スキル、技術スキル、検索スキルが総合的に要求される調査です。今回はその無効資料調査及びその調査戦略立案のポイントについて簡単にご説明いたします。

2. 無効資料調査とは

 事業を行う上で他人の特許権が障害になることがあります。その場合、まずは設計変更などによる特許の回避を検討することになりますが、回避が困難な場合には、その特許権を無効化できないかを検討することになります。その判断のための資料や実際の無効化の手続きで必要となる資料の調査を無効資料調査といいます。特許権は特許庁の審査を経て成立し、審査に当たっては通常念入りに調査が行われています。無効資料調査では、このような審査を一度パスした特許を覆すことが第一義的な目標となりますので、高度なスキルと戦略性が必要となります。

3. 必要なスキル

 まず、特許性に関する法的スキルは必須となります。前述のとおり、無効資料調査では一度調査された特許発明が調査の対象となりますので、新規性違反を問える資料が発見されることはあまりなく、多くの場合、進歩性を考慮することになります。従って、どのような文献が副引例として適しているのか、どのような記載があれば「動機づけ」があると言えるのか、などを法律や判例に則って判断する力が必要になります。

 次に、法的な検討で導き出されたターゲットとなる発明概念を具体的で技術的な記載としてイメージするセンスも重要です。例えば、「材料Xの特定の結晶面がある特性を有することを示す記載が必要」という場合に、「もしそのような記載が存在するのであれば、ミラー指数を伴って記載されるであろう」とか、「透過型電子顕微鏡による回折パターンの写真が実験結果として掲載されているかもしれない」などのように、その技術分野特有の用語や記載方法、図面、表、グラフなどで表現された場合に描かれ得るイメージを解像度高く想像することができれば、調査の目的物が明確になり、調査の精度が上がります。また、目的となる技術に力を入れている国やプレイヤー(企業、大学など)に関する知識、論文誌や雑誌に関する知識などがあるとより的確に調査文献を絞り込むことができます。

 そして、イメージされた技術内容をデータベースの特性に合わせて検索式の形に落とし込み、コストと期待効果をバランスするように検索母集団を調整するスキルも必要です。さらには、事業計画への影響が最小限になるよう、常に全体の見通しを立てながら、適宜調査ルートを修正しつつ、期間内に調査を完了させるといったプロジェクトマネジメント的なスキルも要求されます。

4. 確認すべき書類

 無効資料調査では、既に調査され一度特許性を認められている発明を対象とするわけですので、ただ漫然と審査時の調査をなぞっても良い結果は得られません。そこで、審査における出願人と審査官とのやりとり(審査経過)から攻めどころを探ることが重要になってきます。確認すべき書類は少なくとも以下のものが挙げられます。

  • 特許公報
  • 検索報告書
  • 拒絶理由通知・審査引例
  • 意見書
  • 手続補正書

5. 調査戦略立案のポイント

(1) 特許公報の確認

 特許公報を確認しなければ始まりません。無効化したい特許請求の範囲(クレーム)がどのようなものなのかを、背景技術や実施例の記載と合わせて具体的に把握する必要があります。
 また、権利の状態や存続期間の確認も重要です。特許料の納付がなく既に権利が消滅している場合や、存続期間満了までの残り期間が短く、製品等の製造販売の前に期間満了を迎えるような場合(あるいは製造販売が満了後になるよう時期を動かせる場合)は、無効化の必要性がなくなるからです。

(2) 審査における出願人の主張

 意見書には拒絶理由通知で審査官が通知した拒絶理由に対する出願人の反論が記載されています。多くの場合、「先行文献には記載も示唆もない」というように本願発明と先行発明との差異が強調されています。その主張が認められて特許に至っている場合は、その差異の部分こそが無効資料調査において狙うポイントということになります。

(3) 補正の内容

 審査においては多くの場合クレームの補正が行われますが、ファーストアクション後の補正個所については審査で十分に調査されていない可能性があり、ここが攻めどころになる場合があります。
 例えば、eコマースの発明について出願があり、審査段階でほぼ同じ内容の文献が見つかったため、出願人が情報セキュリティに関する特徴を付加したとします。そうすると、当初のeコマースに関連する技術分野(特許分類でいえば、IPC: G06Q30等)は調査されていますが、付加された情報セキュリティに関連する技術分野(IPC: G06F21等)は十分調査されていない場合があります。

(4) 審査時の調査範囲

 特許公報に記載された「調査した分野」の欄や検索報告書から審査時に調査された技術分野や検索式を知ることができます。これらに抜け漏れがないか、あるいは補正に伴って追加調査すべき分野が生じていないかを確認します。

6. まとめ

 以上、無効資料調査の基本について解説しました。無効資料調査は、出願前調査と同様の調査を行っても良い結果は得にくく、プロフェッショナルのノウハウが効いてくる領域でもあります。無効資料調査でお困りの際には是非ご相談下さい。

調査事業部 静野

<参考>
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/shubetu-muko/index.html
https://www.jpo.go.jp/system/trial_appeal/shubetu-tokkyo-igi/index.html
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

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