我が国における近年の意匠保護トレンドと制度改正動向 ―2026年法改正を中心に―

2025.11.01 | 調査コラム

本記事は、執筆時に調査した内容を元に掲載しております。最新情報とは一部異なる可能性もございますので、ご注意ください。

1. はじめに

 仮想空間におけるデザインの保護を目的とした意匠法の改正法案の2026年の通常国会への提出が見込まれています。本法改正は、2024年12月6日の産業構造審議会第16回意匠制度小委員会で議論が開始され、2025年6月3日に決定された、知的財産推進計画2025にも内容として含められました。

[出典]
日本経済新聞 2025年6月1日 「メタバースのデザイン模倣排除、意匠法改正へ 知的財産計画に明記」
産業構造審議会 知的財産分科会 第16回意匠制度小委員会配付資料

2. 2020年の意匠法改正:デザイン保護の新展開

2.1 保護対象の拡大

 2020年に施行された改正意匠法により、意匠法の保護対象が拡充されました。それまで意匠法の保護対象は「物品」に限られていましたが、新たに「画像」、「建築物」、「内装」のデザインについても、登録ができるようになりました。これは、近年、モノのデザインのみならず、空間のデザインが重視されるようになったこと、また、GUIが機器と離れて独立して付加価値を持つようになったこと、クラウド上から提供される画像の増加等の変化があり、これらへの企業への投資を保護し、我が国の企業競争力を強化する目的がありました。

2.2 その他の制度整備

 その他、組み物の意匠の拡充、内装の意匠の保護、関連意匠制度の拡充等を含む大規模な改正が行われ、政府のデザイン保護による産業競争力強化への姿勢が表れています。

[出典]
令和元年法律改正(令和元年法律第3号)解説書

3. 2020年改正以降の意匠保護の動向

3.1 新たに保護可能となったデザイン分野の活用状況

 知的財産推進計画 2025によれば、意匠法の新しい保護対象である、画像、建築物、内装の出願は2023 年時点で意匠出願の7%程度の規模にまで拡大しており、結果として、従来の保護領域を補う形で新保護領域の出願が増えています。また、2025年10月6日付けの特許庁による発表によると、画像、建築物、内装の意匠登録出願状況は以下のとおりとなっており、特に画像において、活発に出願が行われていることが伺えます。

[出典]
知的財産推進計画 2025
改正意匠法に基づく新たな保護対象等についての意匠登録出願動向 令 和 7 年 1 0 月 6 日 特許庁審査第一部意匠課

4. さらなる意匠法改正の動向:メタバース時代への備え

4.1 仮想空間におけるデザイン保護

 全世界的に、また日本においてもメタバースの市場規模が拡大を続けることが予想される中、仮想空間におけるデザイン保護のため意匠法の改正が検討されています。
最初に述べました通り、仮想空間におけるデザインの保護を目的とした意匠法の改正法案は、2024年12月6日の産業構造審議会第16回意匠制度小委員会で議論が開始されました。現在意匠制度小委員会は2025年6月30日に開催された第20回が最新です。
 第17回意匠制度小委員会において、以下の制度的措置の方向性①②が提示され、それに関するヒアリングの結果が発表されました。
 ①現行の類型(物品・建築物・画像の一部)以外に登録可能類型を拡大する方向性
 ②物品及び建築物の意匠権について実施の範囲を仮想空間上に延長させる方向性」

 これら①②に対して、仮想空間における現実空間のデザインの模倣、仮想空間での利用を想定して創作されたデザインの模倣、現実空間のビジネス主題又は仮想空間のビジネス主体、ビジネス主体のクリアランス調査負担の観点からヒアリング意見を検討した結果、制度的措置の方向性③が提案されました。
 ③は、「現行の登録可能類型である画像の意匠において、操作画像及び表示画像に加え、物品等の形状等を表した画像を保護対象とするもの。」
です。

 制度的措置の方向性③は「、(1) 仮想オブジェクトも画像の意匠として意匠登録可能、(2) クリアランス調査の負担が限定的、(3) 現行意匠法と整合する制度的措置、(4) 現実空間と仮想空間の各ビジネス主体の保護ニーズにバランスよく応えられる制度といった特徴を有する。」とされ、最新の第20回まで、この③の方向性を元に、他法域や諸外国との比較(第18回)保護対象や類否判断(第19回)、実施行為(第20回)について引き続き議論が行われております。2026年通常国会に向けて議論を注視していきたいところです。

4.2 生成AI(Generative AI)時代における意匠制度の対応

 近年の急速な生成AI技術の発展を受けて、特許庁においても「生成AIを利用したデザイン創作の
意匠法上の保護の在り方に関する調査研究」が実施され、産業構造審議会意匠制度小委員会においても、「仮想空間におおけるデザインに関する意匠制度の在り方」と並行し、「生成AI技術の発達を踏まえた検討課題及びこれに対する制度的措置の方向性」が議論されています。
 現在は、第20回意匠制度小委員会において、「①意匠、②創作者、③引用意匠適格性及び④新規性喪失の例外について」今後の検討の方向性が整理された段階です。「生成AIを利用して作成したデザインのうち、(少なくとも)人が創作に実質的に関与したものに ついては、「意匠」(第2条第1項)に該当し得るという方向性(※)で検討を進めてはどうか」等の提案が行われております。

((※)生成AIを利用して作成したデザインのうち、人が創作に実質的に関与したものが「意匠」(第2条第1項)に該当し得ると考えたとしても、意匠登録を受けるためには、新規性、創作非容易性等の登録要件を満たす必要がある。また、登録要件を満たして意匠登録を受けた場合も、意匠権者は、当該登録意匠がその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業として当該登録意匠に類似する意匠の実施をすることができない(第26条第2項)。)

[出典]
総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会報告書2024 概要
産業構造審議会 知的財産分科会 第16回意匠制度小委員会配付資料
産業構造審議会 知的財産分科会 第17回意匠制度小委員会配付資料
産業構造審議会 知的財産分科会 第18回意匠制度小委員会配付資料
産業構造審議会 知的財産分科会 第19回意匠制度小委員会配付資料
産業構造審議会 知的財産分科会 第20回意匠制度小委員会配付資料

5. まとめ

 これまでみてきたように、メタバースと生成AIの普及に対応するべく、意匠の領域についても活発な調査議論が行われております。我が国の産業の発達に寄与することを願うばかりです。

調査1部 加藤

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