欧州単一特許制度と調査における留意点
2023.11.01 | 調査コラム
目次
1. はじめに
2023年6月1日に、統一特許裁判所協定(UPC協定)が発効し、欧州単一効特許と統一特許裁判所を組み合わせた「欧州単一特許制度」が開始されました。欧州特許出願においては、従来型の欧州特許に加えて、欧州単一効特許という選択肢が増えたことになります。
本稿では、本制度の概要と欧州特許調査における留意点について述べていきたいと思います。
2. 欧州単一効特許とは
2.1 従来型の欧州特許
ヨーロッパ特許庁(EPO)に欧州特許出願を行い、EPOによる審査を経て特許付与の決定がされた場合、特許付与日から3ヶ月以内に、欧州特許条約(EPC)加盟国のうち保護を求める国それぞれに有効化の手続(バリデーション)を行うと、各国の国内特許権と同じ効力を有することになります。
更新手数料は各国にそれぞれ支払う必要があります。なお特許権の放棄は国別に行うことができます。
2.2 欧州単一効特許(Unitary Patent:UP)
特許付与の決定までは従来型の欧州特許と同じですが、特許付与日から1ヶ月以内に、EPOに単一効特許の申請を行うと、欧州連合(EU)加盟国のうちUPC協定に批准している国全てにおいて、単一の効力を有することになります。各国で有効化を行う必要がある従来型の欧州特許に比べて、手続や管理の手間は軽減されます。
但し下記の国はカバーされないため、これらの国で保護を求める場合にはそれぞれ有効化の手続が必要になります。
・EU非加盟国(イギリス、スイス、ノルウェ一など)
・EU 加盟国だがUPC協定に不参加の国(スペイン、クロアチア(※2023年10月時点))
・UPC協定への参加を同意しているが、単一効特許の登録時点では未批准の国
更新手数料はEPOに支払います。UPC批准国の中で保護を求める国が多い場合は、従来型の欧州特許に比べて費用を削減できます。なお特許権の放棄は国別に行うことはできず、一括で放棄することになります。
3. 統一特許裁判所とは
3.1 従前の欧州特許関連訴訟
これまで、欧州特許に関連する訴訟は、原則として特許が効力を有する国それぞれにおいて訴訟を行う必要がありました。国によって裁判所の判断が異なることがあり、例えばフランスで特許無効の判断がなされた場合でもその判決は他国では効力を持たず、ドイツでは特許権が有効であると判断される、ということもありました。
3.2 統一特許裁判所(Unified Patent Court:UPC)
今後は、欧州単一効特許だけでなく従来型の欧州特許に関連する訴訟も、統一特許裁判所の管轄となり、その判決は全てのUPC批准国に対して効力を有することになります。
各国で訴訟を行う必要があった従前に比べると、訴訟にかかるコストは軽減されます。またUPC批准国の間では国によって判断が異なるということはなくなり、統一特許裁判所で侵害を認める判決が出れば、全てのUPC批准国において侵害が認められることになります。一方で、各国で有効化されている特許権が統一特許裁判所の判決によって全て無効になってしまう(セントラルアタック)のリスクも孕んでいます。
上記のリスクを回避する方法として、従来型の欧州特許については、UPC協定発効後の移行期間(7年:最長14年まで延長)の間は、訴訟の管轄を統一特許裁判所ではなく各国の裁判所にする申請(オプトアウト)を行うことができます。(欧州単一効特許のオプトアウトはできません。)
4. 欧州特許調査における留意点
4.1 欧州特許調査を行う上での影響
2で述べたように、従来型の欧州特許と欧州単一効特許とでは特許付与の決定までに違いはなく、いずれの場合も、これまでと同様に特許付与日に欧州特許公報(種別コード:B1)が発行されます。
特許付与後に欧州単一効特許の申請をして登録された場合、新たな種別コードとして「C0」が付与されますが、C0としての公報発行はされないようです(4.2参照)。
今のところ、欧州特許調査を行う上での特段の影響はなさそうですが、それぞれの欧州特許について特許付与後の状況を知りたい、といったステータス調査を依頼された場合には、欧州単一効特許の登録がされているか、従来型の欧州特許がオプトアウトされているか、なども確認する必要が出てくるかと思います。
4.2 欧州単一効特許の登録状況の確認
EPOが提供するEuropean Patent Registerで、調べたい欧州特許の公報番号を入力して検索すると、欧州単一効特許の登録がされている場合には、図1のように「UP About this file」「UP Event history」「UP All documents」という項目が表示され、それぞれをクリックして詳細を確認することができます(図1は「UP About this file」をクリックした画面)。
また、同じくEPOが提供するEspacenetでは、調べたい欧州特許の公報番号を入力して検索すると、欧州単一効特許の登録がされている場合には、図2のように「Unitary Patent」の項目が表示され、また「Published as」にC0が付いた番号が表示されます。(C0が付いた番号をクリックしてもそれ自体の公報はなく、B1公報の内容が表示されます。)なお「Unitary Patent」をクリックすると、図1と同じ画面に移行します。
4.3 オプトアウトの確認
UPCが提供するSearch for Opt-outsで、調べたい欧州特許の公報番号を入力して検索すると、従来型の欧州特許(前述の通り欧州単一効特許のオプトアウトは不可)がオプトアウトされている場合には、図3のように「Case Type: OPT_OUT」と表示されます。
また、4.2のEuropean Patent Registerでの検索からも辿り着くことができます。公報番号を入力して検索すると、図4のように画面の下の方に「Opt-out from the exclusive competence of the Unified Patent Court」という項目がありますが、その右側にある「See the Register of the Unified Patent Court for opt-out data」をクリックすると、図3と同じ画面に移行し、オプトアウトされているかどうかを確認できます。
5. おわりに
以上、欧州単一特許制度の概要と、EPOやUPCのウェブサイトを用いた欧州単一効特許の登録状況や従来型の欧州特許のオプトアウトの確認方法を紹介しました。商用の特許データベースの中には、これらの情報の検索・出力ができるよう追加対応がされているものもありますので、お使いのデータベースの対応状況を確認されるとよいかと思います。
4.1でも述べたように、現時点では欧州特許調査を行う上では大きな影響はないかと思われますが、開始したばかりの制度でもありますので、今後の動向を注視していきたいと思います。
調査事業部 藤田
【参考】
・Unitary Patent & Unified Patent Court
https://www.epo.org/en/applying/european/unitary
・Legal texts>Unitary Patent system
https://www.epo.org/en/legal/up-upc
・European Patent Register
https://register.epo.org/regviewer
・Espacenet
https://worldwide.espacenet.com/
・Search for Opt-outs
https://www.unified-patent-court.org/en/registry/opt-out