特許情報の基本知識
2019.04.01 | 調査コラム
1.はじめに
特許の調査分析を行うにあたっては、特許情報についての知識が必要不可欠です。 ここでは、特許情報とはどういったものなのか?どんなことが分かるのか?あるいは分からないのか?について簡単に解説したいと思います。
2.特許情報とは?
特許情報は、広義には特許制度に基づいて生まれる各種の情報を言いますが、特許の調査分析においては、主に、
- 特許公報・公開特許公報のデータ(書誌事項・明細書・特許請求の範囲などの情報)
- 整理標準化データ(書誌・経過情報) ※ただし、2019年5月からデータ形式が変更される予定。
を指します。
日本では1993年に電子公報(CD-ROM公報)の発行が開始されており、公報データはデータベース化されています。また、それ以前の公報データについてもOCR又は人手でフルテキストデータが作成されており、データベースによる検索が可能になっています。
特許情報は各国の特許庁などから提供されますが、その様式についてはWIPO(世界知的所有権機関)において標準化されており、多国間の分析を行う場合でも使い勝手が良いのが特徴です。
なお、WIPOが特許情報について定める標準は、以下のようなものがあります。
Standard ST.9: Bibliographic data on and relating to patents and SPCs(書誌データ) Standard ST.36: Processing of patent information using XML(XMLデータ)
Standard ST.8: IPC symbols on machine-readable records(国際特許分類)
3.特許情報から何が読み取れるのか?
特許情報には大きく技術情報と権利情報が含まれます。
技術情報としては、
- 発明が属する技術分野
- その技術分野における技術課題
- その解決手段 ・図面
- 実験データ
が挙げられます。また、
- その発明をどの企業・発明者が発明したのか(出願人・発明者)
- その発明が一般に公表されたのはいつか(公報発行日)
なども知ることができます。さらに、その発明がなされた時期についても出願日のデータから推定することが可能です。
権利情報としては、
- 特許権の範囲又は特許権を得ようとしている範囲(特許請求の範囲)
- 権利者(特許権者)
- 権利の発生時期や消滅時期(登録日・権利消滅日)
- 現時点での権利の状態(経過情報)
が挙げられます。また、出願段階及び登録後の手続の記録(経過情報)からその特許の重要度・注目度が推定できますし、どの国で特許を取得しているのかあるいは取得しようとしているのかを見ることによって、その企業がビジネス上重視している国が判明する場合もあります。
4.情報を組み合わせる
前項では単独の特許情報から読み取れることを説明しました。この特許情報を複数集めることにより、さらに様々な分析を行うことができます。 例えば、ある企業の特定技術についての出願件数の増減を見ることによって、開発や知財投資の状況が分かりますし、特定技術の出願について企業間で比較することによって、技術の競合や差別化の状況が確認できます。また、特許情報以外の情報、例えば学術論文やマーケット、ニュース情報などと組み合わせることによって洞察を得るということも行われています。
5.特許情報の限界
ここまで解説してきたように多くのことが読み取れる特許情報ですが、限界もあります。そのうち大きなものが、特許情報の公開の時期(公報の発行の時期)です。 公開特許公報は原則として、特許出願の日から1年6か月経過後に公開されることになっています。従って、新しく発行された公報であってもその内容は少なくとも1年半前に書かれたもので、その企業の開発状況や出願動向をリアルタイムに開示するものではない点に注意が必要です。
6.まとめ
以上、特許情報の基本についてその概要を解説しました。 特許情報は技術や権利など、多くの情報が含まれる有用な情報源です。またその様式は国際的に標準化されており、グローバルな分析も比較的容易です。一方で、情報開示のリアルタイム性などに劣る面もあります。特許の調査分析においては、こうした特性を理解した上で業務を行っていくことが肝要です。
調査事業部 静野
<参考>
https://www.jpo.go.jp/introduction/rekishi/125th_kinenshi.html https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/data/keikajoho/index.html https://www.jpo.go.jp/system/laws/sesaku/h280229_fulltext.html http://www.inpit.go.jp/about/profile/enkaku.html https://www.wipo.int/standards/en/part_03_standards.html